10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

 昨夜、途中で顔を隠した私の手を先生が無理やり取って、束ねた時のものだ。
 それを思い出すと、身体と顔がカッと熱くなる。

(なんだ……! この無理矢理恥ずかしいこと思い出すようなこと言われて、羞恥心を削られてる感じ……!)


「ごめんね。早く冷やしておけばこんなに残らなかっただろうに」

 しかし先生は本当に心配そうにそう言うと、手首をスプレーで冷やす。その冷たさに身体が跳ねた。
 そこで私はふと疑問になる。

 確かに腕は赤い。でも、いつもつけられている大量のシルシより赤くないのではないだろうか、と……。思わず口を開く。

「シルシはいっぱいつけても気にしない癖に……」
「それとこれとは別」

 ピシャリと言われて、私は、先生に優しくさすられている腕を見る。

 そんなことをされていて思い出すのは痛みとか怖さじゃなかった。

(あの時の先生の余裕のない顔とか、掴まれてる手から伝わってくる熱とか……そんなことだ)
< 252 / 333 >

この作品をシェア

pagetop