10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

「うーん、まぁ、もう少し落ち着いたらね」
「そう言って、今日もこれから、夜にまた仕事しようとか考えてませんか」
「少しだけだよ」

 どうやら私に言われたくらいでは、休む気はないようだ。
 私のいう事だって、真面目に聞いてほしい。私はもう子どもじゃない。

(……やっぱり前言撤回!)


 私は先生の両頬を両手で持ち、こちらを向かせる。

「大和さん、こっち見てください」
「え?」

 まっすぐ大和先生の目を捉える。
 すると次の瞬間、大和先生は、ふい、と目線を反らせた。

「ちゃんと見ててっ! 目、逸らしたら絶交です!」

 怒ったように声を強めると、先生は一瞬驚いたような顔をして、次に息を吐いて諦めたように私を見る。
 私は先生の目をじっと見つめる。

「……今日だけでも、朝までゆっくり寝てください」

(1,2,3……)

 使えるかどうかわからないし、使ってほしくないことも知っていた。
 でも、私はあっさり使うことを決めた。

 もし本当にこの暗示が使えるなら、こう使いたい。
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