10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

「あ、でも、俺も果歩ちゃんにバレンタイン用意したんだ」
「バレンタインって?」
「うーん、好きな子にチョコレートをあげる日、かな」

「果歩、チョコレート食べられない」

 甘いものは好きなのに、チョコレートは昔からあまり得意ではなかったのだ。

「知ってるよ。だから他に用意して」
「あ! わかった! 果歩の好きなイチゴのラムネ!」
「あたり」

 そう言って差し出されたのは、あの赤いセロファンで包まれたイチゴ味のラムネだ。

「これ、全部イチゴ味だよ。これだとゆっくり食べられるしね」

 私は早速一つ出して、食べる。
 すると口の中に甘酸っぱいイチゴの味が広がる。

「おいしい! 大和くん、私も大好き!」
「え?」
「バレンタインは好きな子にお菓子あげるんでしょ?」

「まぁ、ははは。そうだね」

 幼児の無邪気な告白に、困ったように笑う大和さん。

(そうだ、昔は私の方が大和先生の事、好きだったんだ……)

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