10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

 その時、

「ちょっと待ってよ。うちの果歩落としたいなら、それ相応のダイヤを用意してもらわないと……」

 むっとしたような低い声が聞こえて、大和さんは振り向くと笑った。

「歩さん」

(歩さん……って、私の本当のお父さんだ)

 私の目にうつったのは、写真でしか覚えてない父の笑顔。

「何言ってるんですか。相変わらず親バカですね……」
「だってさぁ、イヤじゃん。目の前でかわいい娘奪われるの」
「奪ってませんって」

 大和さんが言うと、二人は楽しそうに笑い合う。
 私はそのとき、パチリと目が覚めた。

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