10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
「あと……歩さんは昔、『暗示』について研究してる時があってね」
「暗示?」
私は思わず顔を上げる。
「……暗示とはいえない暗示だけど、これならだれでもできるよって、あのラムネの味のことも教えてもらった。人の味覚は、ほとんど『視覚』と『嗅覚』に頼っていて、本当の味はなんでもいいんだって」
私の『暗示』も……もしかしたら父が昔やっていたのを潜在的に覚えているのかもしれない。そんな気がした。
「大和さんは……暗示、私ができるってわかってました……?」
「はは、そうだね」
「大和さんは? 暗示かけられるんですか?」
「前も言ったでしょ。俺はできないよ。暗示をかける方法も解く方法も知ってるけど、かけるほうは声の周波数とか、まぁ、色々あるから、俺には無理だ。できるのは、ラムネを『イチゴ味』だと『思わせる』くらい」
本当に大和先生はかけられないらしい。でも、『思わせる』ことはできる。
難しいけど、なんとなくわかる。
「なんで、教えてくれなかったんですか。あまり暗示かけてほしくなかったんですか? なんで……?」