10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
「歩さんは暗示を果歩に教えた、なんて言ってなかったから、最初、果歩が使えるの知って驚いたよ」
「私も教えてもらった記憶はないんですけど……。でも動物は目を合わせて呼べば来るなってくらいの認識でした」
「そう」
「普段、私が大和さんに暗示かけようとしてた時はどうしてたんですか?」
「まぁ業務の事とかはね、かかっても問題ない事だったけど、一応かわしてた」
「かわす?」
「言ったでしょ? かわし方も知ってるって。暗示の条件の二つ目が、『必ず10秒以上相手の目を見て、目を離さないこと』。つまり逆に、少しでも目を反らせれば暗示にはかからない」
それを聞いて、私は腑に落ちた。大和さんは目を逸らすことが多かった。
すると大和さんは困ったように笑って私の頬を撫でる。
「歩さんと果歩はさ、笑った顔、すごく似てるの。俺は果歩を見るたびに歩さん思い出してた」
「そう、ですか? ……嬉しいです」
そんな風に、似てるって言われるのは嬉しい。短い時間しか一緒に入れなかったけど、私はお父さんの子なんだと思える。