10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
「大和くん!」
俺の顔を見るなり、果歩は飛びついてくる。
幼い果歩と中学生の俺が、なぜよく成井総合病院で会っていたかというと、肺がんが見つかった歩さんが入院していたからだ。
俺は歩さんの様子が心配で毎日のように病院に顔を出していたし、果歩も少しでも歩さんと一緒にいさせてあげたいと言う母親である友果さんの気持ちもあって、毎日面会時間には必ず病院に来ていた。
だからこそ、俺は果歩と会うことが多かった。
果歩は、最初は母親である友果さんの足の後ろに隠れて全然目も合わせてくれなかったのに、歩さんが昔俺に教えてくれたラムネをあげると喜んで、それから俺に懐いてくれていた。
もちろんそんな幼児に対して恋愛感情なんかなかった。……なんていうか、なかなか懐かなかった子猫みたいなもので、しかも歩さんの子どもということもあったので、愛着や家族のような愛情の類はしっかり持っていたと思う。