10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
果歩が眠くなる夕方になると、友果さんと果歩は、大抵家に帰っていく。
すると、俺は歩さんの部屋に顔を出して、歩さんがベッドに移動することを手伝ったりした。
「ごめんな、大和」
果歩が帰った途端、今まで歩いたり遊んだりしていた歩さんはベッドに横たわる。
歩さんは、果歩の前では決して辛い面を見せないようにしているようだった。
「いつも無理して……。果歩ちゃんの前ではいいカッコするんですから」
「無理するのが大人、だろ」
ふふ、と楽しそうに歩さんが笑う。
「俺の前ではいつも子どもみたいなくせに」
きっぱりと言うと、歩さんは苦笑した。
「あぁ、でも、それも暗示に必要な条件なんだよね。『かける人間が純粋であればあるほど、深く長くかけられる』。人によっては相手に気づかれずに何十年もかけ続けられるらしいよ。僕もそれは無理だけどね」
「へぇ」
歩さんから聞く暗示の話は、嘘のような本当の話だった。
俺は一度、暗示で嫌いな食べ物を食べさせられてから、嫌でも暗示を信じるようになっていた。