10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
歩さんはベッドで一息つくと、俺を睨みつけ、
「それにしても……果歩はお前に夢中だよ。ちくしょう」
と言い出す。
「本気で悔しがらないでくださいよ! ほんといつまでも子どもみたいなとこありますよね!」
この人は最初に会ったときからこうだった。
しかし、不思議とその魅力にとりつかれたのは自分だ。
小さなころから歩さんは俺の憧れで、大事な人だった。
歩さんは、目を細めて、ベッドサイドの写真に写る娘を見る。
「ほんとに……大事な子なんだ。死んでも空から見守ってやるけどさ」
俺はその時まだ中学生で、正直、生とか死とか身近な人間が死んだことがなかったからあまり実感がなかった。
目の前のこの子どもっぽい人が……病気でもうすぐ死んでしまうなんて、まだ信じられなかった。