10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

「……やっぱり死ぬんですか」
「あぁ、死ぬ。人なんてあっさり死ぬよ。まぁ、殺されるとか物騒な死に方じゃないからさ。それだけは良かった」
「……色々な人、診てたんですよね」
「ほーんと、色々な人がいたよ。でもやっぱり、大人になっても感情の表現の仕方がわからない人が多いのかな、って思ってた。だから精神科医の出番も多い」

 歩さんは精神科医だったけど、医療刑務所の精神科担当医だった。

 それは想像以上に大変な仕事で、歩さんは仕事で出会う相手の事ばかり気にして、自分のことは後回しにし続けていた。
 そうして病気の発見が遅れたからこそ、今家族と一緒にいられる時間が増えているが……そんなの喜ぶべきことでもなんでもない。むしろ皮肉だ。
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