10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
その言葉が、なんだか最後の言葉のようで、俺は唇を噛んだ。すると歩さんは続ける。
「友果一人じゃ、育てていくの大変だろうから。味方が一人でも多い方がいいんだ。それに大和は信頼できる。見る目がある僕が言うから間違いない」
そう言われると無条件にうれしくなる。
歩さんはいつだって、こういうことわかっていってる気がする。
「……はい」
俺は真剣に、ゆっくり頷いた。
それを見た歩さんは嬉しそうに目を細める。
「あ、もし果歩の事、女の子として好きになっても、果歩が20歳超えるまで絶対手は出さないでよ!」
「好きにならないですし、20歳超えても手を出しませんって!」
「僕、そういう見る目もあるんだけどなぁ」
歩さんが楽しそうにケラケラ笑って、「でも、大和ならいいや」と言った。
その時はまた歩さんが変なことを言い出した、くらいに思っていたんだ。
―――そして次の日の午前、歩さんは息を引き取った。