10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

「果歩ちゃん。これ、食べない? イチゴ味のラムネ」
「……」
「これね、昔、俺も歩さんからもらったんだ。だから今でも大好きなの」
「いらない」

 聞いたことのないきっぱりした声で、小さな果歩は言う。
 
「果歩ちゃん」

 まっすぐ果歩の目を見る。
 何度も試したけど、自分に暗示ができないってことはわかってた。でも、動いていた。

「果歩ちゃん、一つでもいいから食べて。俺は果歩ちゃんまで、いなくならないでほしい」

 最初で最後でもいい。だから、暗示をかける力が欲しい。そんなことを何度も祈った。

 目が合う。10秒のカウント。目は反らされなかった。

「……食べる」

 弱弱しい小さな声が届く。
 きっと暗示にかかっているわけではなかったはずなのに……果歩はそう言った。

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