10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
その時、
「いくらなんでもそれは……そんなバカな判断ありますか?」
口を開いたのは父だった。俺は心底驚いて父を見た。
父は親戚内では『ことなかれ主義者』だと思っていたから。でも、聞いたこともない口調できっぱりと告げた。
「一人暮らしの男のところに中学生の女の子一人急に住むなんて常識的に考えておかしいでしょう? しかも、今まで面識もない男のところだ」
「それは私の常識がおかしいということか」
年齢に似合わない怒気をはらんだピンと張った声が場を突き抜ける。
それに怯むことなく、父は続けた。
「そうです」
そしてまだ言葉を繋ぐ。「こと今回に関してはそう思います。もし翁介くんが果歩ちゃんに何かするようなことがあれば、大きな問題になりますよ。ならなくても、私が必ず問題にします」
さすがにそれは、と思ったのか、口を一瞬噤んだ歩さんの祖父は、睨みつけるように父を見て低い声で脅すように言う。
「……病院のことも含めて……覚悟を持って言ってるのか。あんな子、一人のことで」
父はあっけなく微笑んで、「もちろん」と笑ってから真顔になって、
「ちなみに『あんな子』じゃないです。両親からもらった『果歩』って大事な名前がありますから」
その言葉が意外だったのか、さらに相手は言葉に詰まっていた。