10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
「なら勝手にそちらで引き取ればいい。ただ、これから親戚の集まりには顔を見せるな。何かあっても頼るな」
「ありがとうございます」
父は頭を下げるとその場を立つ。母も覚悟しているように、すっと立ち上がった。
思わず二人に駆け寄る。
「……よかったの?」
「そうしないと大和が暴力沙汰起こしそうだったし」
熊のように怖い顔のクセに、目じりを下げて優しく笑うと続ける。
「まぁ、『無理をするのが大人』だろ」
「……っ」
その言葉に思わず泣きそうになった。
歩さんの言葉だ。
自分はどれだけ無力で、これまでどれだけ周りの大人に支えてきてもらったのだろうとも思った。
「おい、おやじがかっこよすぎて泣くなよ」
「かっこよすぎて泣いてるわけじゃない。っていうか泣いてない」
「とにかく果歩ちゃん、迎えに行っておいで。島原くんがおいかけてくれたよね」
「あぁ」
島原が果歩を連れて行ってくれていたプラネタリウムに迎えに行って、果歩にうちに来るように言葉を尽くして説得した。
果歩は最初本当にいいのか戸惑っていたが、父も、うちに来てほしい、と告げると、果歩は母親が亡くなってはじめて、ボロボロ涙を流した。そして、何度も頷いていた。