10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

 果歩は規則正しすぎるくらい規則正しく生活していたから、研修医だった俺が顔を出す時間にはたいていもう寝ていた。

 夜、家族3人がリビングテーブルを囲む。
 こんなことも果歩が来るまでは回数が少なかったな、なんてことを思う。

「大和」
「はい?」
「そうそう頻繁に帰ってくるな」
「え……なんでですか」

 思わず詰め寄るように言うと、父は口を開く。

「果歩ちゃん、お前の獰猛そうな顔見ると怖がるだろ」
「父さんほどではないでしょう」

 二人でいがみ合ってると、大抵のんびりした口調で母が今日までのトピックを教えてくれた。

「果歩ちゃん、クラスの男子に手を握られてたのよぉ。買い物帰りに見かけて青春だわってキュンキュンしちゃったわぁ。果歩ちゃん、かわいいからもてるのよねぇ」

 俺と父の顔色が一瞬で変わる。

「え、今度は誰?」
「聞いてないぞ!」

「相手聞いたら医者と研修医としてあるまじきことするでしょう」

 母親の鶴の一声で、二人とも黙り込む。

「「う……」」

 まぁ、それは決して否定はできない。

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