10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

 ただ、問題は家の外……。病院の事だった。
 
 この時、果歩を引き取って6年目。当初は『どこからか』力が働いて、経営はかなり厳しい状況に追い詰められた。
 けれど、最近は少しずつ持ち直しそうなところまで来ていた。

「病院は……大丈夫なの」
「あぁ、大丈夫だよ」
「俺、もう研修期間も終わるし、大人だよ……少しは頼ってくれ。そもそもは俺のせいだろ」

 そう、あの葬儀の日の時の出来事だ。
 あの時、怒りを買った相手が良くなかった。

 歩さんの祖父は、隣県とは言え、医師会の副会長。声も大きいし、顔も広い。気に食わない病院を経営破綻に追い込むくらいはできる人間ではある。

 父は何も言わなかったが、それくらいは察したし、研修医とはいえ、同じ業界だ。調べればすぐわかる。

「大和のせいじゃない。大和は大和でちゃんと自分の専門を見極めて決めなさい」
「もう脳外にした」
「……」
「……歩さんがいけって言われてた脳外」

 俺はもうそう決めていたし、実際、成井総合病院にも専門の脳外科医は手薄だ。

「そんなことで決めたの」
「そんなことじゃない。大事なことだ。それに、成井総合病院だって脳外科医少ないでしょ。絶対助けになる。俺の脳外の腕が認められるようになれば、あちらの副会長の考えにも少しは影響するだろうし」
「……そんなことお前が考える必要ないのに」
「でも……」
「……とにかく目の前の、やるべきことをやりなさい」

 そうやって、自分は蚊帳の外にされているようで嫌だった。
 まだ研修医だが、自分だっていつだって何かしたいと思ってる。
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