10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
「果歩の顔見て帰る」
俺がそう言って席を立つと、父親がぽつりと言う。
「……襲うなよ。わかってるな?」
「当たり前だろ!」
何を言ってるんだ。
そう思うけど、なんでそう思うのかは怖くて聞けなかった。
俺はそっと果歩の部屋を見る。
果歩は、寝息を立てて眠っていた。
「あんな小さかった子が、もう18か……」
月の光を浴びた顔がやけに女の子に見えて、俺はただ驚く。
そして目線を下げれば、白い首筋まで見えて目に毒だ。
果歩は高校卒業後、この家を出て短大に通うことを決めた。
「頼むから変な男に引っかかるようなことはしないでくれよ……」
一人暮らしなんて心配しかない。
できれば自分の一人暮らしのアパートの近くに引っ越してくれないだろうか……。
そんなことを思っていた。