10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
それより、と話を戻す。
「昨年の収支見ました。もう少し救急受け入れませんか。補助も出やすくなるだろうし」
「でも、人手不足だ」
病院長は言う。確かにそうだ。けれど、まだ定常的に受け入れられなくても、先に受け入れて補助さえ出てしまえば、人を増やせるきっかけにもなる。
経営に直結しなくても、この地盤での立ち位置も安定するだろう。
「俺がいるでしょう。そのために、大学病院で力もつけてきたんです」
「……大和。そんなにうちの病院のことを心配して……! お父さん嬉しい!」
抱きつかれそうになって、さっとそれをかわす。
「誤解しないように。違いますから」
「じゃあ、果歩ちゃんのため、か……」
そう呟かれて、それも違う、とは否定できなかった。