10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

 軌道に乗るまでは自分自身も信用できないので、できるだけ果歩と距離を取っていたのだけれど、時々果歩は俺のところに病院長から頼まれた『頼み事』を持ってやってきた。

「大和先生、これ。病院長からです。今日、診ていただきたいと」
「今日?」
「はい。できれば午後一でと……。お願いします」

 またこうやって使われて……。
 というか、あの人はどういうつもりで果歩にこれを頼んでいるのだ。2人っきりにして危ないとか思わないのか。

 疑問が頭をめぐる。

 次の瞬間、果歩が明らかに俺の目を捉える。
 きっかり10秒。最初は驚いてそのまま目を見続けてしまった。

 そして誘われるままにカルテを手に取ると、果歩は慌てて去っていく。

 果歩は、もしかして『暗示』のこと、知ってるのか?
 間違いなくきっかり10秒だった。

(しかし果歩はそんなこと今までしたことなかったし、歩さんも教えたなんて言ってなかったぞ……)

 そう思っていると、そのあと簡単にその訳が分かった。

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