10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
ある日、島原が果歩を連れて医局にやってくる。しかも、果歩の手を取って。
それを見て思わず眉が寄った。そんな俺を見て、島原は微笑むと、
「今日、果歩ちゃんと二人で飲みに行くんだけど、大和も来る?」
と言う。
(二人で? どういうつもりだ……)
そう思いながら、果歩を見ると、
「あの……大和先生忙しいだろうし、ご無理せずに」
果歩が言い終わるより前、島原先生は果歩に何かを耳打ちした。
そして果歩は戸惑いながら、
「でも、よければ……一緒に来てくださいませんか」
そう言われて、果歩は俺をじっと見た。
暗示をかけようとしているのだとすぐ分かった。
果歩の暗示は安定せずにかかってもそんなに長い効果はないことは分かっていたのだけど……。
(もしかして、さっき島原がそうしろと言ったのか?)
暗示にかからないようにそっと目をそらし、また戻す。
「や、大和先生?」
「行く」
はっきり言うと、島原が嬉しそうに笑った。
「ほら、うまくいった」
「元から私頼りだったんじゃないですかっ」
「ごめんごめん」
やっぱりそうだ。
島原が知ってるってことは、果歩はもしかして、『島原に暗示をかけた』のだろうか?
嫌な予感がする。
もし、暗示にかかったということなら、間違いなく島原の気持ちも果歩に向いているからだ。
そして、その予感はしっかり的中しているのだが……。