10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
「おめでとう。妊娠だって?」
病院の廊下を歩いている時、その声に振り向くと島原先生だった。
「はい」
島原先生は目を細めると口を開く。
「二人の子どもって、絶対かわいいよねぇ。麻子さん、絶対自分が取り上げるってもう興奮してるけど」
「あはは、麻子さんずっと言ってますよ」
私が笑うとあちらから大和さんがやってくるのが見えた。
大和さんは私の肩を当たり前のように抱き寄せると、私のお腹を撫で、
「この子が女の子なら、島原は絶対近づくな。お前は人たらしすぎる。昔からそうだった」
と不服そうに島原先生に言った。
「ありがとう」
「褒めてない」
大和さんが不満げに言うと、島原先生は心底楽しそうに笑う。
「あはは!」
「そういうところが嫌いだ」
大和さんが憮然とした表情で言ったが、島原先生は飄々とした様子で目を細める。
「僕は好きだよ。果歩ちゃんのことも、大和のこともね」
それを聞いて大和さんは、ぐっと言葉に詰まる。そして負けた、というように笑って息を吐いた。
「全く、そういうとこだよ。でも……この子にも、病院にも、味方になる人間は多い方がいい。それが島原なら最強だ。……これからもよろしくな」
島原先生はそれを聞いて微笑むと、分かってるよ、とその場を去っていった。