10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

 そもそも全部、島原先生のくだらない作戦のせいだ。
 で、でも、まだ引き返せる……はず。

 今更だけど、全貌を成井家に話して、大和先生に土下座して、この話を収めるしかない。
 そう思ったとき、

「何してるの?」
と聞き覚えのある声が聞こえて、私は身体が跳ねた。
 振り返ると、大和先生がそこにいる。しかも、以前のように不機嫌な顔で。

「ひぃっ!」

 叫んだものの、あれ、その不機嫌な顔……もう暗示解けてるんじゃない? とほのかな期待とともに大和先生を見上げる。
 しかし、大和先生は眉を寄せながら、

「果歩、俺以外の男と二人きりにならないでくれる?」
「な、何言って……」

 そのまま手を引かれて、大和先生の胸の内に収められた。

「ひぃいいいいいいいい!」

(これは悪い夢だ!)
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