10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
泣きそうな私を離そうともせず、果歩、と柔らかな声が私を包む。
「さっき病院長とも話してたんだけど、早めに入籍して、一緒に住んだ方がいいって」
「何言って……」
「変にうわさが伝わってもあれだし、みんなへの公言も早めにした方がいいからさ。今日みんなには伝える」
(ミンナニツタエル……?)
「ちょ、ちょっと待ってぇぇええええええ! わ、私の意見とか……!」
「何か問題?」
「今、大和先生は正気じゃないんですって!」
とにかく……とにかく、なんとか暗示を解く方法を探さないと! 本気で結婚なんてことになる!
なのに、そんな私の慌てっぷりを、大和先生は微笑ましそうに目を細めて見ると、
「だから何言ってるの? 十分正気だよ」
「そう思ってる時が一番危ないんですっ! し、島原先生! 島原先生からも何か……!」
島原先生なら、このふざけた茶番劇を全貌を知っている。
(止めてくれ。いますぐ、止めてくれ……!)
そう思っているのに、
「本当におめでとう!」
心底楽しそうに笑って、島原先生はそう言い放ったのだった。