10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
(やっぱり今からでもお断りしたい……!)
正直何度もお断りしようとしたし、真実を話そうとした。しかし、断る隙も与えてもらえず、話しは進むばかり。
つい先日などは、病院のみんなに発表されたうえに、なぜか広報誌にまで載る始末。
大和先生の戸籍にバツを入れてはいけないので入籍だけはしてはいけないと、その一線だけは必死に守った結果、なぜか先に同棲する運びになってしまったのだ。
「果歩、緊張してる?」
「は、はいぃ」
(間違いなく、人生で一番の緊張感です……)
そう思ってフルリと勝手に足が震える。
怖いのは、大和先生と一緒に住むことだけど……それよりなにより、大和先生の暗示が『今』解けることが怖い。超コワイ。
暗示が解けるのは、できれば二人きりでないときにお願いしたい。それは確実だ。
私は東京湾に浮かぶのも嫌だし、臓器提供されるのも私が元気なうちはできる限りやめていただきたいのだ。
「大丈夫、すぐにどうこうしたりなんてしないから」
「ど、どうこうってなんですか? なにするつもりですか……」
「それ聞いちゃうんだ?」
意地悪そうに目の前で笑っている大和先生の顔を見て、自分の発言をさらに深く反省した。
(もしかしてもう暗示解けてて、すでに私を沈める計画とかあります……?)
そんなことを考える私に大和先生は加える。
「まぁ……『あの』程度の知識だもんな。俺のせいでもあるんだけど……。興味があるなら今すぐ詳しく教えてあげるけど、どうする?」
それを聞いて、慌ててブンブンと首を横に振った。
自分の行く末など、全く知りたくない。できれば最後は畳の上の大往生パターンでお願いしたい。けど、きっとそんな結末は待っていない。そうであればもういっそ聞きたくはないのだ。
同棲って言っても、一緒に住むこと以外は何をするのかよくわからないけど、とにかく大和先生に怒られないように、大和先生の邪魔にならないようにしよう。
2人でいる時は暗示を解かず、皆でいる時を狙って暗示を解く! そう強く心に決めていた。