10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
次の瞬間、大和先生の大きな手が、するりと私の頬を撫でる。瞬間、ピクリと身体が跳ねた。ゆっくり見上げた先、大和先生は私を見て、愛おしそうに目を細めていた。
「や、大和先生……?」
「二人の時は大和でいい。いずれ結婚するんだし、家でまで先生つけられるのも落ち着かない」
「あの……それは無理です」
「なんで?」
「だって、先生は先生だし……」
(そもそも結婚するまでには絶対にこの暗示を解いて見せるし、先生を呼び捨てにするなんて天地がひっくり返っても無理だ)
大和先生は少しむっとした顔をすると、大和、と強めに言う。
(だから無理だってば!)
どうしてそんなところにこだわるのかわからない。なら私が呼べばいいだけの話なのかもしれないが、私にはそんな根性はない。私はヘタレなのだ。
私は、大和先生、と言って首をフルフルと横に振る。
その次の瞬間、大和先生が何かを思いついたかのように、にやりと口端を上げる。
そのなんだか嫌な予感のする笑みに、思わず身をひるがえそうとした瞬間、大和先生は私の指に自分の指をスルリと這わせて、そのまま私の手を掴んだ。
前に手を繋がれはしたけど、こんな手の繋がれ方ではなくて、その手と指の熱がやけに生々しくて慌てる。
手をブンブンと振って、大和先生の手を離そうとするけど、大和先生はまったく手を離してくれる様子はなかった。
「や、大和先生? なんですか……。は、離してください」
「大和って言ったら離してあげる」
「そ、そんな意地悪な……」
私が言うと、大和先生はまた意地悪な笑みを浮かべた。
「意地悪? 意地悪なんてしてないよ」
「でも」
私が先生を見上げると、先生は目を細めてまっすぐ私を見ている。その目に吸い込まれそうになった。
「ずっとこのままでもいいけど、どうしたい?」
(これ、まさか尋問……!)