10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
言葉に詰まりそうになるのをなんとか堪えて、一枚のカルテを大和先生に見せる。
「大和先生、これ。病院長からです。今日、診ていただきたいと」
「今日?」
「はい。できれば午後一でと……。お願いします」
私がそう言うと、大和先生は私をギロリと睨む。その罪人を蔑むような目に、私は泣きそうになり、さらに身体は縮み上がった。
(だから嫌だったのに……!)
泣きそうになるのをなんとか堪えて、唇をぐっと噛むと、まっすぐ大和先生の目を見る。相手は一睨みするだけで人を撃ち殺せそうな目だが、やるしかないのだ。
(1,2,3,4……)
ゆっくり心の中でカウントを始める。
(7,8,9,10!)
終わった! と思ったところで、もう一度「お願いします」と言った。
大和先生は、怒ったようにカルテを私の手から抜き取る。私は慌てて頭を下げると、踵を返し、すぐに医局を出た。