10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

「や、大和先生!」
「うん」

 先生は楽しそうに笑いながら、指の間の手の力をさらに込める。
 自分の手に緊張とよくわからないドキドキ感で、汗がじんわり滲むのが分かった。

(やっぱりこれ、何かの新しい拷問ですね……⁉︎)

 大和先生はもう暗示が解けているのだろうか。その上でこんなことして、私を追い詰めようとしているのだろうか……。

 涙目で見上げると、大和先生は楽しそうに私を見ている。

 どうやら『大和』と名前を呼ばないと、これは続くらしいことだけはよく分かる。でもやっぱり呼び捨てなんてできない。
 いや、もしかしたら、呼び捨てにした瞬間、『呼び捨てなんて不届き千万』とか言って切り捨てられるのだろうか……? そういう作戦……?

「や……」

 先生と目が合う。

(そうだ、目合わせて、それで離してって言えばいいんだ!)

 そう思って10秒数えようとするけれど、目の前の見たことない甘い目をしている先生のせいで、3秒もしないうちに限界がやってきて目を逸らす。

(なんで!)

 泣きそうになって唇をかむと、何かここから逃れる手はないかと必死に考え、意を決して口を開いた。

「や、大和さん! 離してくださいっ……」
「んんー……『さん』って。……まぁ、今はそれでいいか」

 大和先生はつぶやくと、繋いでいる手に口づけて、手をやっと離してくれる。
 その優しい仕草を見て、私の心臓はドキドキと大きく音を立てた。そのまま、呆然と大和先生を見ていると、先生は楽しそうに笑っていた。
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