10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
先生は目を細めて、私の頭を優しく撫でた。その手の心地よさに思わず目を瞑ると、次の瞬間、額に、チュ、と口付けられた感触がする。
「せ、先生⁈」
「また名前」
「や、大和、さん」
「うん?」
「な、なんでおでこにキスするんですか?」
「本当は唇にするんだ。それくらいは知ってた?」
そう問われて、私は考えて頷く。
「は、はい……」
私が読んでた少女漫画ではね、それが最後なの。それが最終段階なのだ。
(もしかして今から唇にキスされる?)
私はふるりと体を震わせて、先生を見上げる。先生はもう一度、額に優しくキスを落とすと、私の目を見た。そうされると、頭の中がふわふわした心地がする。
「今日はまだ緊張してるし、初日でしょ。我慢してここにだけ。明日は唇にするからね? 覚えていて」
先生は当たり前のような顔をしてそう言って、私はあまりに先生が堂々としていたので、私が知らないだけでそういうものなのか、とやけに納得し、コクリと頷いた。