10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
7章:はじめてのキス

 緊張したままベッドに入ったけど、夜、ふわ、と懐かしい匂いがして暖かくなって……そうしていたら急に眠たくなって、そのまま寝たら昔の夢を見た。
 

 それは私が小さな頃の夢だった。

「ごめんなさい、この子、人見知りで……」

 お母さんの声がした。私が中学一年の時に死んだ、本当のお母さん。

 そう言えば、小さな頃の私は極度の人見知りだった。いつもお母さんの足の後ろに隠れているような、そんな子どもだったのだ。

「果歩ちゃん。前も会ったことあるけど、覚えてない?」

 相手の顔も見れず、その優し気な男の子の声だけを聞く。私はまた、お母さんの足にぎゅう、と強くしがみついた。
 そんな私に大きな手が差し出される。

「大丈夫だよ、おいで」

 きれいなのに、すこし骨ばった大きな手を見て、ふいに顔を上げる。とたん、目の前にいた中学生くらいの男の子と目が合う。そうするともう目がそらせなかった。
 
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