10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
私が病院長室に戻ると、ちょうど内科部長の島原良平先生と成井和孝病院長が話をしていた。
島原先生は私の顔を見ると言う。
「どうしたの、そんな遭難した山で熊に遭遇したような悲壮な顔して」
「熊の方がマシですよ! なんで私に頼ませるんですかぁ……!」
私は病院長に泣きつく。いくら私が病院長秘書だからって、業務が『あるところ』に偏っているような気がしてならない。
すると全く悪気のない顔で病院長は答えた。
「だって、ああいうときの大和にお願い聞いてもらえるの、果歩ちゃんだけだからねぇ。大和に何か頼むとき果歩ちゃん頼りになっちゃうんだよ」
「大和先生は猛獣か何かですか」
「まぁ、近いとこあるじゃない?」
病院長が言うと、島原先生がからかうように加える。
「見た目は病院長の方が猛獣だけどね」
「失礼な」
病院長が膨れた。かわいく膨れてみても見た目は怖いのが成井和孝病院長だ。病院長の見た目は、熊のそれに近い。
顔が怖すぎる、と恐れられているので、小児科などには絶対に出入りさせられない。ただ、心根はものすごく優しい。そして……。