10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
パスタとスープとサラダだけだったのだけど、大和先生は何度もおいしい、って言って食べてくれて、私はその先生の顔を見るたびに、胸がギュウと締め付けられるように痛くなった。
でも、先生はもうキスをしてくれることはなく、夜寝る時も、「ごめん、もう少し調べものをしてから寝る。先に寝ておいて」と言って、優しく笑うだけ。
ベッドの中は、今日は冷たくて、なかなか眠れなかった。
そして私はというと、何度も先生とのキスだけを思い出して、自分の唇に指を這わせる。
少女漫画を読んでいて、キスは両想いになった人たちの一回きりの『儀式』のように思っていた。こんな風に、何度も思い出して、何度もしたいって思うのは変だよね……。
(だから先生、あの時止めたのだろうか……? まずいってどういうこと?)
私は先生に呆れられたのだろうか……。
そう思うと、気分が灰色の渦になってきて、その灰色の渦が私の胸をさらに締め付けてくるように思えた。