10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
泣きそうになった時、島原先生は私の前に座り口を開く。
「大和と喧嘩でもした?」
「……大和先生が暗示にかかってるのをいいことに、私、先生に『もっとキスしてほしい』ってさらに暗示をかけたんです」
私が言うと、島原先生は顔を綻ばせてクスクス笑うと、
「あぁ、そりゃ重罪だね」と言う。
その言葉に絶望していると、島原先生は加えた。「で、なんでそんな暗示かけたの?」
「自分でも全く分からないんです……! でも、まだしたいって思ってて。 私、さらに罪を犯そうとしてるんですよ! これ、おかしいですよね⁉ どうしたら治せますか!」
私は目の前の島原先生に、ずいと顔を寄せて聞く。すると島原先生が次に口を開いた瞬間、島原先生の背後から、果歩、と聞きなれた声がした。顔を上げると、大和先生が不機嫌な様子でそこにいる。
「大和先生……?」
「ちょっと来て」
そのまま、立ち上がらされて、腕を持たれたまま先生はずんずん歩き出す。
(もしかして、さっきの話聞かれた……? なんなら、今、暗示解けてる?)
背中に冷たい汗が流れる。
(やだやだやだやだっ! 嫌な予感しかしない!)