10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

 連れていかれたのは、病院の資料室。
 昼でも薄暗いそこは、扉が閉まってしまうと音すら漏れない。

 ここならたぶん、なにかしらの事件が起こっても、気付かれない場所……!

「先生、ごめんなさい! お、怒ってますよね。やっぱり……!」
「果歩が思ってるのとは、違う理由でね」

 きっぱりと大和先生は言う。
 そして、壁際にいる私を追い詰めるように前に立つと、そのまま私の首筋を撫でた。

「ひゃっ! だめ、です!」

(ここで事件起こると、病院長困りますよ! いいんですか⁉)

 そう思って泣きそうになりながら先生の顔を見る。

「果歩は、何かあればすぐ島原に相談してるよね」
「だって……」

(私の力のことを知ってるのも島原先生だけだし、大和先生の暗示の件だって知ってるの、島原先生だけだし……!)

 そうは思うけど、もちろん言えない。
 先生は詰問するように言葉を続ける。

「何話してたの? もしかして、我に返ったらキスが嫌だと思った?」

 突然そんなことを言われて、頭が混乱した。

(嫌だなんて思うわけない! むしろ……)
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