10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

「でも、病院長は大和先生のお父さんじゃないですかぁああああ!」

 そう、病院長は先ほどの『成井大和』先生の父親でもあり、この親子は、中身と外見が正反対なのだ。
 そして本来なら、なにか無理なお願いごとを頼むのは、父親でもあり上司でもある病院長のはずだ。
 なのに、病院長は楽しそうに笑うと、でも私は大和怖いしね、とさらりと言った。

「私なんかもっと怖いんですよぅ! 知ってるくせに!」

 泣きながら言うと、島原先生は私の方を見る。
「でも、果歩ちゃん、大和先生の顔が大好きだっていつも言ってない?」
「顔だけです」

 間違いなく顔だけだ。あの顔は誰が見てもかっこいい。それは間違いない。

「果歩ちゃん、昔から大和の顔だけは好きだよねぇ。わかるよ。大和の顔は、和世に似てるからね」

 病院長が笑って言う。和世とは、病院長夫人でもあり、絶世の美女である大和先生の母親だ。つまり、大和先生の顔は母親似というわけだ。病院長には一ミリも似てない。

「性格は病院長が世界一です。だから病院長の外見が大和先生だったら完璧なのに……!」
「私の性格が世界一だなんて……嬉しい事言ってくれるねぇ」
「病院長……。遠回しに、外見はこき下ろされてるんですよ?」

 島原先生が突っ込んだが、病院長は嬉しそうに目を細めて私を見ていた。

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