10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

「……ちが。ちがって……」
「じゃあなに?」

 先生の声が怒ってる。私はそれにまた泣きそうになる。

「ふぇ……怒らないで、沈めないで聞いてくださいぃい……」
「何言ってんの、俺は果歩にひどいことしない。事と次第によっては俺が怒るのも沈めるのも島原のほう」
「ほんとですか……」
「あぁ、本当」

 大和先生はコクリとうなずく。
 島原先生は沈められても浮かんできそうだし、不死身そうだし……。なにより、島原先生は大和先生と仲がいいから、それは口だけのような気がして少し安心していた。

 先生の指がふと私の唇に触れる。
 そうされると、私の胸は昨日の出来事を思い出して、また、やけにドキドキした。
 
 次の瞬間、先生が口を開く。

「だから何かあれば、全部俺に言いなさい」

 そう言われている時ですら、先生の唇を見て、私はキスの感触を思い出して、もう一度したいって思ってしまっていた。
 なにこれ、おかしい。泣きそう……。
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