10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
「こんな仕事してるとね、大丈夫ってわかってても、開いてみたら予期せぬこともあるって分かってるから。だから、言っておきたくなったんだ」
その言葉に思わず顔を上げる。
「それもあって無理矢理結婚進めるようなこと言って焦らせたよね、ごめん。果歩ちゃんが大和と結婚して、子どもとかもし生まれて、そうやって自分がいなくなっても、果歩ちゃんが幸せに囲まれていられるんだって想像したら年甲斐もなくはしゃいじゃって」
なんでこの目の前の人は、病気の自分より私の事なんて心配しているんだろう。
血のつながりも薄い、そんな私のことを……。
その返事をするように病院長は続けた。
「私が勝手にさ、果歩ちゃんの父親の気持ちでもいるだけなんだ。和世は和世で果歩ちゃんの母親だと思ってる。悲しい経験もしたけど、その分、果歩ちゃんにはきちんと幸せになってほしい」
「……病院長」
「自分は、和世がいて、大和も生まれて、それに果歩ちゃんが来てくれて。もう十分幸せな人生だったから」
―――病院長は、いや、私を育ててくれたお父さんは、
顔は怖いくせに、世界でいちばん優しくて……酷い人だ。