10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

 家に帰ってもぼんやりしている私を、大和先生は心配そうにのぞき込む。

「果歩?」
「あ、すみません。驚いてしまって……まだドキドキしてる……」
「心配しないで。俺も島原もレントゲンと血液の数値見たけど、発見も早い段階だし大丈夫だと思ってる……。それに日向先生の腕はみんな信頼してるから」
「はい……」

 日向先生は肺がんのエキスパートと言われている外科医だ。しかし、頭では分かっていても、心配しないはずはない。

 そんな私を大和先生は優しく抱きしめた。そしてあやすように背中をぽんぽん、と軽く叩く。

「それにあの人……俺たちの父親はさ、果歩が悲しむようなことしないでしょ。きっと、意地でもがんでは死なないと思うよ」

―――大和先生も病院長に似て、優しい。
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