10秒先の狂恋 ～堅物脳外科医と偽りの新婚生活～

　成井和孝病院長とその奥さんの和世さんは、13歳から18歳まで私を育ててくれたいわば育ての親だ。
　両親を亡くした私を、本当の父親の遠縁の親戚であった病院長が、和世さんとともに本当の子どものように大事に大事に育ててくれた。

　さらに就職先にあぶれた私を病院長秘書として雇ってくれている。自分にできることは少し無理してでもしたい、と思っているのは当たり前のことだった。

　一人暮らしを始めている現在も、本当の親子以上に仲良くしてもらっている。


　しかし、大和先生はそんなわけにはいかなかった。

　大和先生は、私が成井家に住みだした時にはもう大学生で一人暮らしをしていた。一緒に住んだことはないが、私は勝手に、大和先生と兄妹のように仲良くなれればと思っていた。
　けれど、大和先生の『あの』性格から、その希望はまったく叶わず、現在に至るというわけだ……。