10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
先生はそんな私を抱きしめると、背中を軽く叩いて言う。
「早めに入籍しよう。それから報告しにうちにいこうか」
私は少し考えるとそのまま口を開いた。
「あの……入籍、手術の前日じゃダメですか? 私、ちゃんと家族として手術が終わるのを待っていたいんです」
成井家で育ててもらってはいたが、私の戸籍は成井家には入っていない。
会ったことはないが父方の祖父母の籍にはいり、名字はそのままだったのだ。
でも、どうしても今回は……病院長の手術の時、他人でいたくないって思った。
それが、私が大和先生にプロポーズして、大和先生のプロポーズを受けた大きな理由の一つだ。
先生はわかっていたかのように、
「もちろんいいよ、果歩がそう望むなら」
とあっさり言う。
「ありがとうございます」
私はそう言ってから、先程頼んだ時、大和先生の目を見てなかったことに気づいた。
(先生は本心から、それでいいって思ってくれたのだろうか……?)