10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
私が病院長室を出た時、島原先生も一緒に出てきて、私の横を歩き出した。
「使ってるんでしょ。アレ」
「少しだけ。だって大和先生怖いですし……断られたら病院長が困るのも分かりますし」
「あはは」
心底楽しそうに島原先生は笑う。この先生は最初から面白がっていた。私はつい、眉を寄せる。
それを見てまた島原先生は笑うと、
「じゃ、あれから大和以外には使ってないの?」
と首を傾げた。
「そういえばそうですね」
「欲がないんだよね。僕なら間違いなく乱用するな」
「乱用って」
「例えばさ、好きな人に『私を好きになってください』っていうとか」
「考えたこともないなぁ……」
「えぇ! ふつうそれが一番先でしょう! 僕ならそうするね」
島原先生はそう言って楽しそうに笑う。
『これ』に最初に気づいたのも島原先生だった。