10秒先の狂恋 ～堅物脳外科医と偽りの新婚生活～

　病院長の手術の前日、私と大和先生は入籍した。
　病院長夫妻に報告に行くと、ふたりともすごく喜んでくれて、病院長は「それじゃ孫の顔と成長を見るまで絶対に死ねないなぁ」と笑う。

　そんな嬉しそうな病院長を見て、私は心からよかったと思った。


　オペの間、私と和世さんと大和先生は、手術室の前で待っていた。時折、病院のスタッフが順に様子を見に来てくれて、みんな、病院長が心配なんだと感じて、心が熱くなった。

（だから、どうか……。みんなの前からいなくならないでほしい。私のお父さんのようにはならないで欲しい……）

　そう何度も祈っているうちに、予定より手術が早く終わって、日向先生が出てきたとき、その明るい表情に私たちは心底ほっとした。

　手術の内容や結果の話は私には難しい話だったけど、大和先生が聞いてくれて、終わった時の大和先生の安心した表情を見て私もまたさらに安心した。