10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

 なんだろう。羞恥心を削る新しい形の拷問だろうか……。
 そもそも本当の事? 先生、嘘言ってない?

「果歩」
「きゃぅっ……!」

 訝し気に先生を見た時、するりと頬が撫でられ、先生はまっすぐ私を見ていた。
 その目に捉えられると、目が離せなくなる。

「好きな人の全部見たいし、触りたいし、キスしたいって思うのはおかしいことじゃない。夫婦なら余計に」
「ふぇ……」

(やだ、何その理論。本当? 嘘?)

 でも先生の目を見ていると、本当のことだとやけに思えて、その事実に泣きそうになる。
 先生は私の目じりに溜まった涙を指で拭うと真剣な顔で言った。

「俺は果歩に触れたいよ。全部見たいし、愛したい」
「せんせ……」
「名前」
「大和さん、私……」

(でも、裸なんて……! 全部、脱ぐなんて……無理だ!)

―――こればっかりは、私……初めて結婚を後悔しています……!
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