10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
13章:二人の医師

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 深夜のオンコール処置のあと、眠気覚ましに自販機のある休憩室に入った島原は珍しいものを見る。大和がコーヒーを飲みながら、珍しく頭をガシガシと掻いていたのだ。
 大和がこれをするのは、大抵が何か困っている時だということを、島原だけは知っていた。

「どうしたの」

 そう言うと島原の方も見ずに大和は答える。

「少しだけ反省してた。急ぎすぎたかと思って」
「手術? 病院長の手術は成功したろ」

 それから少し間をおいて、大和は言う。

「……いや、果歩のこと」
「え? いまさら?」

 思わず島原が言うと、訝し気に眉を寄せて大和が島原の顔を見る。
 その表情に島原は吹き出しそうになった。

「お前のそういうとこ、嫌いだな」
「僕以外に大和に言える人いないからねぇ」

 二人は幼馴染で同じ大学の同期だ。専門科は違えども、救急処置などではよく一緒になる。

 大学でも二人は教授陣にも一目置かれるほど知識も処置も飛びぬけていたが、大和は研修期間が明けてさらに大学病院で3年ほど修業を積むと、引き留めも気にせずそのまま実家の成井総合病院に入った。

 島原は当然大学病院で教授の椅子を目指すと思われていたが、なぜか島原も同じように成井総合病院にシレリと入ってきた。

 そのときは、さすがに大和も心底驚いたものだ。
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