花嫁も大聖女も、謹んでお断り申し上げます!
四章
逃げても逃げても白い靄が追いかけてくる。足を捉えられ、エミリーは前のめりに倒れた。
後ろを振り返れば、大聖女ロレッタがそこにいた。
「まだ生きているの?」
冷たく吐き捨てられ、ロレッタがゆらりと近づいてくる。
エミリーはもがき、必死に伸ばした手が、……空を切った。
ハッとして目を開き、ぼやけた視界に映る自分の手をゆっくりと下ろす。
悪夢の余韻に荒い呼吸を繰り返しつつ天井を見つめていると徐々に視界が戻ってきて、自分がベッドに寝ている事を知る。
どうしてこんな状況なのかと疑問を抱き数秒後、刺客の男が放った毒矢に倒れ、オレリアに助けられたことを思い出す。
エミリーがゆっくりと体を起こすと部屋の扉が開き、アデルと目が合った。
「オレリア様! エミリーさんが目覚めました!」と廊下の向こうに呼びかけると、すぐに足音が響き、アデルの隣にオレリアが並ぶ。
「あぁ、気がついてよかった。ずいぶん長い間目が覚めなかったから心配したんだよ」
オレリアは一足飛びにエミリーのそばまでやってきて、小さな手を両手で包み込んだ。