花嫁も大聖女も、謹んでお断り申し上げます!
「そうだった。すっかり忘れていたわ。今ここで書いてしまうわね」
エミリーはソファーから降りて、立ったまま右手でペンを持ってテーブル向かう。
『親愛なるお父様、お母様へ』と書き出してから左手で頬杖をついて、なんて書こうかしらと頭を悩ませた。
「本日はお日柄も良く……違うわね……元気にお過ごしでしょうか?」
「手紙か?」
声がかけられると同時に手元がかげり、エミリーは勢いよく視線をあげる。
眠たげな顔のレオンに「字、上手いな」と見降ろされ、エミリーは自分の体で手紙を隠すようにテーブルに突っ伏した。
「レオン様、いつの間に! 見ないでください!」
「それなら書き終わったら見せてくれ。……添削してあげるよ」
「結構よ!」
便箋と封筒とペンをまとめて両手で抱えて、逃げるようにパタパタと居間を出て行く小さな後ろ姿を見つめながら、レオンはしみじみと呟く。
「添削で意味が通じるなんて聡い子だ。確かまだ三歳だったよな」
これでは気付かれるのも時間の問題かもしれないとオレリアはエミリーの脇の甘さに苦笑いした。
エミリーは懸命に階段を駆け上がって自分の部屋へ。扉をしっかり閉じて、ふうっと安堵のため息をつく。