花嫁も大聖女も、謹んでお断り申し上げます!
「まだ出だしだけで助かったわ。書くときはレオンに見られないように注意しないと。鍵をかけておくべきね」
机の引き出しの中へと便箋など隠すように押し込んだあと、鏡台の前に移動する。
今度はその引き出しを開けて、中に大切に入れておいた蝶の髪飾りを取り出す。
レオンにもらったそれをぎゅっと抱きしめた。
大人の姿に戻り、いつかこれを付けて彼の前に立つ日が来れば良いなと小さく微笑みを浮かべる。
エミリーはゆるりと部屋を見回し、ベッドの上のブランケットが綺麗にたたまれているところにレオンの痕跡を感じる。
ついさっきまで二人で横になっていたんだと、思い出し熱くなった頬を冷たい風が撫でた。
あれと不思議になって目を向けると窓がわずかに開いている。
そこでもうひとつの存在が見当たらない事に気づいた。
「そう言えば、土兎はどこに行ったのかしら」
居間で会ったレオンの肩にはいなかった。
机やベッドの下などを探し歩くがやはり小さな獣は見つからない。
改めて室内を見回し、エミリーは空いている窓に目を止める。
「もしかして外に出て行ってしまったのかしら」