花嫁も大聖女も、謹んでお断り申し上げます!
横道からやってきた同じクラスの男子学生に「エミリー! ちょうど良かった。今度の研修のことだけど」と親しく声をかけられる。
わずかに速度を落とすも、「ごめん、帰ってきてから聞くわ。私急いでるの」と早口で男子学生の言葉を遮って、軽く会釈をしつつ門扉に向けて走り続けた。
足を止めぬまま、肩から下げている小さなバッグから外出許可証を引っ張り出した時、門番がギギッと木製の大きな扉を押し開けた。
その隙間から、まずは華やかなドレスを身に纏った女性がふたり、続けてそれぞれの侍女だろうメイド服姿の女性がふたりほど敷地内に入って来る。
「ご苦労様です」と膝を折って優雅にお辞儀をした前の令嬢ふたりに気づいて、エミリーは心の中で「うわー」とうんざり声をあげる。
あまり顔を合わせたくない聖女クラスのふたり組だったからだ。
とは言え、物陰に隠れてやり過ごすなどの時間の余裕はない。気持ちを重くしながら、門扉に向かって突き進む。
ふたりの女性はニコニコと笑っていたが、エミリーに視線が向いた瞬間、嘲笑うような表情へと揃って変化した。
「あらあら。バタバタとまるで獣ね。マナーがなってませんわ。はしたないこと」
「仕方ないわよ、田舎育ちですもの。農作業する姿はとっても堂にいってましたわ。私には真似できませんけども」