花嫁も大聖女も、謹んでお断り申し上げます!
小馬鹿にする声はしっかり聞こえているため腹は立つが、ここで相手にして時間を無駄にしたくなくて、エミリーはぐっと堪える。
ふたりの女性の横をさらりと通過し、門番へと駆け寄り外出許可証を差し出す。
「お願いいたします」
「……はい、確かに。華樹祭が始まり露店も多く出ていて、街はとても賑やかですよ。あなたもこれから買い物ですか?」
「買い物ではないのですが、マルシェに用事があって」
確認した許可証をエミリーに返しながら、門番が気軽な様子で問いかける。
それに正直に答えたエミリーだったが、背後で響いた「聞きまして?」と嘲笑交じりの声に思わず真顔になった。
「あの子、これから露店を開くんじゃないかしら」
「モースリーには出稼ぎに来てるって話は、やっぱり本当のようですね。ご実家が貧しいと大変ね」
エミリーはすっと彼女たちに顔を向けて、微笑みを浮かべた。その瞬間、女性たちは目を見開き、動揺を隠しきれないままにエミリーに背を向け歩き出す。
「口元は笑ってても、目がまったく笑ってませんね」
ぷぷっと笑った門番にエミリーは肩を竦めてみせてから、「行ってまいります」と門扉をくぐり抜けた。