花嫁も大聖女も、謹んでお断り申し上げます!
言いながらエミリーは顔を青ざめさせ、慌ててフィデルへと手を伸ばす。
「ご、ごめん。原石のまま渡すなんて気が利かないわよね。アクセサリー系の魔導具を探すわ。だからまた改めて」
「いや、このままで構わない。ありがとうエミリー。俺、今すごく嬉しい」
無表情でじっと魔石を見つめていたフィデルの顔に、ふわりと優しい笑みが広がる。外套のフードがその美麗さをかげらせているのが口惜しくなるほどに。
「持ち歩くよ。どこにいてもエミリーを感じられるように」
顔の熱が上昇し、「や、やだ」と再びエミリーはもじもじする。
そんな自分が恥ずかしなり「それじゃあ、またね」と逃げ出そうとしたが、すぐさまフィデルに腕を捕まれる。
「待ってくれ。俺も話しておきたいことがある」
「なっ、なあに?」
流れ的に愛の告白かもとエミリーは胸を高鳴らせるが、期待に反してフィデルの顔はどんどん暗くなっていく。
「本当は違うんだ。俺の名はフィデルじゃない」
「……はい? 突然なによ。変な冗談ね」
「冗談じゃないんだ。今まで嘘をついていてすまない」
視線を伏せたままでいるフィデルの姿に、「本当なの?」とエミリーの中で驚きが衝撃へと変化し、徐々に目が見開いていった。