花嫁も大聖女も、謹んでお断り申し上げます!


「まっ、待って。フィデルじゃないって……でっ、でもだって、みんなもずっと昔からあなたをフィデルって呼んでるじゃない」


にわかに信じられなくて反論するも、彼の後ろで荷物を抱え持っている眼鏡の男性に目を止めて、半開きになっていた口をぴったり閉じる。

そんなまさかと焦りつつ必死に記憶を掘り起こすも、いつもそばにいるこの彼がフィデルを「フィデル」と呼びかけているのをそう言えば見たことがない。

眼鏡の彼の口数が元々少ないせいよと理由付けようとするが、もうひとり彼を「フィデル」と呼ばない人物を思い付いてしまい唇を噛む。

オレリアはフィデルを「お前さん」と呼ぶ。今まで気にも止めていなかったことが、今更になって意味があったと気づき、なぜどうしてと複雑な感情が体の中を駆け巡る。


「そこの彼とオレリアは、あなたの本当の名前を知っているの?」


恐々としたエミリーの問いかけに、フィデル……という名ではないらしい彼が頷き認める。


「エミリーすまない。黙っていて悪かった。色々と隠さないといけない理由があって」


彼なりの事情があるのなら仕方ないと理解してあげたい一方で、オレリアや眼鏡の彼は本名を知っているのだから自分にも教えてくれたって良かったのにと不満が膨らむ。

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